▼性格の悩み

性格の問題で悩む人が非常に多くなっています。自分の性格だけでなく、パートナーや友人、上司や部下、顧客との関係で、相手の性格に悩まされるということも増えています。性格の偏りや不安定さが強まって、生きづらくなった状態が、パーソナリティ障害です。対人関係が難しくなったと言われますが、その要因の一つとして、パーソナリティ障害が増えていることも指摘されています。

性格の悩みの根底にある問題を理解する上で、パーソナリティ障害について基本的なことを知っておくことは、とても役に立ちます。パーソナリティ障害は、いわゆる「常識」とは少し違った基準をもっているので、常識的な見方で、問題を理解しようとしても、限界があるのです。パーソナリティ障害について知ると、それまで不可解だった行動やいくら言っても効き目がなかった問題の本当の意味がわかってきます。そうすると、自然に対応の仕方も変わり、お互いが楽になります。

性格の偏りは、極端になると、デメリットが増え、生きづらさが増しますが、程よく存在することは、むしろ「個性」として大切なことです。その個性を活かす方向に、ライフスタイルとの調和をはかると、人生は、より快適で、実り多いものになると言えます。

自分や周囲の人のパーソナリティについて、是非見直してみてください。きっとさまざまな発見があるはずです。

ここでは、岡田尊司の著書『ササッとわかるパーソナリティ障害』(講談社)から、パーソナリティ障害についての基本的な知識を整理しましょう。岡田は、それ以外にも、『パーソナリティ障害』(PHP新書)や『パーソナリティ障害がわかる本』(法研)『境界性パーソナリティ障害』(幻冬舎新書)など、パーソナリティ障害に関する著書を数多く書き、どれもロングセラーとなっています。

岡田尊司『ササッとわかるパーソナリティ障害』より

 

1.そもそもパーソナリティ障害とは何ですか? 

パーソナリティ障害とは「著しく偏った」状態です。偏り方は、さまざまで、一見正反対のように見えることもあります。

 

パーソナリティ障害(人格障害)とは、一言で言えば、「性格の著しい偏りのために、自分自身だけでなく、周囲も苦しむ状態」で、生活に、重大な支障が生じるほど程度が強いものを言います。少しくらい、その傾向があっても、支障なく生活ができている限りは、「パーソナリティ・スタイル」で、障害ではありません。偏り方は、さまざまで、大きく十タイプに分かれます。どのタイプも、極端な偏りのために、うまく周囲に適応できなかったり、苦しさを抱えたりするという点では、同じです。

 たとえば、自信やプライドをもつことは大切ですが、それが行きすぎると、「自己愛性パーソナリティ障害」となります。逆に、自信不足から、人に頼る傾向が強まると、「依存性パーソナリティ障害」になりますし、自信不足が露呈しないように、プレッシャーがかかる状況を避けるようになると、「回避性パーソナリティ障害」へと発展します。過剰も不足も、生きづらさを生むのです。

 

2.パーソナリティ障害は性格?病気?

 パーソナリティ障害は、かつて考えられていたような不変の、治療不可能な状態ではなく、改善可能な「障害」と考えられています。

 

かつて、パーソナリティ障害のことを「精神病質」と呼んでいました。今日でも、司法精神医学などでは使われますが、「烙印」を押すような響きがあります。「精神病質」には、生まれつきもった素質で、治らないという意味が強いからです。「烙印」ではなく、治療可能な「障害」として捉えようと、使われるようになったのが「パーソナリティ障害」です。

実際、わかってきたことは、パーソナリティは、かつて考えられていたほど不変なものではなく、可塑性があるということです。パーソナリティ障害の人も、ずっとそういう「性格」だったのではなく、挫折や傷ついた体験をきっかけとして、バランスが悪くなり、偏りが極端になったという場合が多いのです。また、治療的関わりや体験によって、時間はかかるけれども、改善するケースが多いということもわかってきました。決して、変えようのない異常性格ではありません。

 

3.いつからパーソナリティ障害になるのですか?

思春期以降、性格は大きく変化します。青年期以降、ある時期から、偏りが強まってきます。比較的急激に「発症」することもあります。

 

パーソナリティ障害は、青年期から成人期の初めまでに、はっきりその傾向が現れるものだと考えられています。思春期を境に、「性格」は大きく変動します。そのため、小学校時代までとは、異なる傾向がしばしば見られます。小さい頃は、友だちともよく遊び、活発で、大胆だった子が、中学生以降、不安が強く、引っ込み思案な回避性の傾向を強めるといったことは、珍しくありません。多くは徐々に変化しますが、比較的急激に、「性格」が変わったと感じられることもあります。ことに、「境界性パーソナリティ障害」では、それまで、頑張り屋で、気持ちも安定し、きちんとしていた人が、急激に不安定になり、自殺企図や攻撃的な言動を見せ、周囲を面食らわせることが少なくありません。元々心のどこかに見捨てられ不安を抱えながら、何とかバランスを保っていた人が、古傷を再現するような出来事をきっかけに心の均衡を失ってしまうと、そんなふうになりやすいと言えます。

 

4.どうやって、診断するの?

パーソナリティ障害は、検査をすれば、診断がつくものではありません。その人の通常の行動や認知のパターンが、診断基準に該当するかで判定します。

 

体の病気を診断するときのように、検査をすれば、それで診断がつくというわけではありません。心理検査は、ある程度、診断の助けになりますが、優先されるのは、その人が、過去一年程度の間に、どのような行動様式をとってきたかということです。正確に言うと、行動だけでなく、認知(どのうよに物事を受け止めるか)や感情(どのように感じるか)といった内的体験の部分も重視されます。それについて、本人や周囲の人から、十分話を聞き、パーソナリティ障害の診断基準に該当するかどうかを判定します。該当する合には、各タイプの診断基準と照らし合わせて、どのタイプに当てはまるかを特定します。薬物の影響や身体的な原因によるものは、除外されます。また、パーソナリティ障害は、多くは十代から、遅くとも二十代前半には、そうした傾向が始まっているのが通常です。二十代後半以降に、性格が変わったように感じられるときには、他の原因の可能性が考えられます。 

 

5.パーソナリティ障害に共通する症状

パーソナリティ障害は、タイプによって、まったく異なった特徴を示しますが、根底には、共通する基本症状があります。それは、一言で言えば、「幼い心の状態」ということです。

 

パーソナリティ障害には、代表的タイプだけでも、十のタイプがあります。それぞれ、偏り方が異なっているだけでなく、正反対な偏りを示す場合もあります。一見すると、まったく別々のものに思えますが、実は、すぺてのパーソナリティ障害には、表面的な偏り方の根底に、共通する症状や特性があります。この共通する根本症状をしっかり理解しておくと、複雑に見える現象も、よくわかります。

では、パーソナリティ障害の根本症状とは、何なのでしょうか。それは、一言で言うと、「幼い心の状態」に陥っているということです。パーソナリティ障害の人では、発達心理学的には、乳幼児期から児童期前半の頃に特徴的に見られる状態に固着したり、退行を起こしているのです。その心理学的特徴は、専門的に言うと、「部分対象関係」「妄想分裂ポジション」「躁的防衛」「境界性人格構造」「自己愛固着」です。それぞれについて、これから見ていきましょう。・

 

6.白か黒か、常に両極端に考えてしまう

物事を白か黒か、全か無かで、両極端に考えてしまいます。中間がない二分法的思考は、部分対象関係が優勢なことによるものです。

 

パーソナリティ障害の基本症状の一つは、両極端に、全か無かで考えてしまうという二分法的思考です。他人が、親切で、思い通りにしてくれている間は、「すごくいい人」と受け止めるのに、少しでも、思いに反することをされたりすると、途端に「ひどい人」「サイアクの人」と評価が逆転してしまうのです。

  精神分析家のメラニー・クラインは、幼い子どもを観察するなかで、乳児期の段階で優勢にみられる対象との関わり方を「部分対象関係」と名付けました。この段階では、子どもは、母親という全体的な存在ではなく、たとえば、オッパイという一部分でしか見ず、ミルクがよく出るときには、「良いオッパイ」、出が悪いときには「悪いオッパイ」と、まるで別々の存在を相手にするように振る舞うのです。こうした「部分対象関係」は、パーソナリティ障害の人では、まだ優勢に残っていて、その不可解な反応を、理解するのに役立ちます。

 

7.他人を心から信じることができず、人との絆を築きにくい

傷つきやすさのため、本当は「味方」になってくれている人も、些細なことで攻撃されたように感じ、「敵」に思えてしまいます。

 

二つめの基本症状として、パーソナリティ障害の人は、とても傷つきやすいという点を上げられるでしょう。通常なら笑って聞き流せるようなことでも、ひどく侮辱を受けたように感じ、長く引きずってしまう場合もあります。些細な他人の言葉で、落ち込んだり、気に病んだりしがちです。こうした傷つきやすさは、生来の過敏性を否定的な体験が強化したことによります。心の発達から言えば、「妄想・分裂ポジション」に陥りやすいためです。「妄想・分裂ポジション」は、前項で説明した「部分対象関係」の段階で出現しやすいもので、普段は優しくしてくれる人の行動であっても、自分の思いに反すると、それを攻撃と受け取り、激しい怒りをぶつける状態です。パーソナリティ障害の人では、部分対象関係が色濃く残っているため、ストレスがかかると、妄想・分裂ポジションに陥って、「味方」さえも、「敵」だとみなしてしまうのです。その結果、安定した信頼関係を維持することが難しいのです。

      

8.自信と劣等感が同居

心の奥底にある劣等感や自己否定感を代償しようと、自信を装ったり、強気に振る舞ったりしてしまいます。

 

三つ目の基本症状として、劣等感と自信が、不安定に同居しているということです。心の奥底に自己否定感を抱えていて、それを、その人なりの方法で、代償することで、かろうじてバランスをとっています。第三者からは、強い安定感があるように見える場合も、実は、もろい面を抱えています。心の発達という観点から見ると、自己否定感から、自分の非を責める状態である「抑うつポジション」に陥るのを避けるために、強気に振る舞うことで、自分を守ろうとする「躁的防衛」の仕組みを、過剰に発達させているのです。「躁的防衛」の方法は、他人に「優越」することや、「支配」することや、「見下す」ことによります。自分の非を認めずに、相手を攻撃したり、責任転嫁したりするのも、「躁的防衛」だと言えます。普段からは想像がつかない程、激しい行動化を起こすのも、「躁的防衛」の結果です。しかし、「躁的防衛」が崩れると、抑うつポジションに陥って、急に自分を責めてしまったりします。

 

9.自分と周囲の境目があいまいで、自分と相手の立場を混同しやすい

自他の境界が曖昧な「境界性人格構造」のため、自分の感情を、相手に投影したり、自分の身近な人と相手を心理的に同一視したりします。

 

四つ目の基本症状としては、自分と他者の境目が曖昧になりやすく、自分と相手の立場を混同しやすいことが挙げられます。精神医学者のオットー・カーンバーグは、そうした特徴をもった心の構造を、「境界性人格構造」と呼び、自他の境界が失われた「精神病性人格構造」や自他の区別はしっかりしているが、抑圧した葛藤のために不安や緊張を生じやすい「神経症性人格構造」の中間的なものと考えました。多くのパーソナリティ障害は、「境界性人格構造」を特徴とします。(ただし、回避性及び強迫性パーソナリティ障害は、「神経症性人格構造」に分類されます。)

そのため、自分の気持ちと相手の気持ちを混同したりすることが起こりやすいのです。たとえば、自分が、相手のことを嫌っていると、相手も自分のことを嫌っているように感じたりします。また、相手が父親と年格好が似ていると言うだけで、父親に接しているように、自分の気持ちをぶつけてしまったりします。

 

10.自己愛障害を抱えている

自分へのこだわりが強く、自己愛のバランスが悪い。自分を過度に粗末に扱ったり、つまらない意地を張って、大きな損失を被ったりします。

 

五番目の基本症状は、自己愛のバランスが悪いということです。自己愛とは、自分を大切にする、人間が生きていくのに不可欠な能力です。コフートによると、自己愛は、二つの中間段階を経て、発達します。最初の段階は、「誇大自己」の段階で、すべての関心を求め、神のような万能感を抱いています。その後、発達してくるのが、「理想化された親のイマーゴ」の段階で、親を神のように理想化し、それに一体化することで、自分の理想像を育む段階です。それらを経て、誇りと理想をもち、現実的な知恵を兼ね備えた、成熟した自己愛へと結実するのです。ところが、幼い時期に、自己愛が十分満たされなかったり、過度に満たされすぎたり、親を愛せなかったり、親に失望したりすると、自己愛の発達が損なわれ、貧弱な自己愛しか持てなかったり、いびつに肥大した自己愛を膨らませたりしてします。こうした自己愛障害の結果、自分を粗末に扱ったり、不遜になりすぎたりしてしまうのです。

 

11.パーソナリティ障害の原因は遺伝?環境?

パーソナリティ障害の原因は、遺伝と環境要因が、およそ半々で関係しています。他の疾患に比べても、環境要因の関与が大きいのが特徴です。

性格は、遺伝なのか、環境なのかという議論が、昔からあります。パーソナリティ障害の原因は、遺伝なのでしょうか、環境なのでしょうか。その疑問に答えを出す方法として、双生児研究があります。まったく同じ遺伝子をもつ一卵性双生児と、普通の兄弟程度に遺伝子が異なる二卵性双生児で、一方が、パーソナリティ障害の場合、もうひとりがパーソナリティ障害になる割合を調べることで、遺伝的要因の関与の割合を求めることができます。その方法で、調べた結果、パーソナリティ障害の発症に、遺伝的要因が関与する割合は、パーソナリティ障害のタイプに余り関係なく、概ね、五割強という結果が出ています。これは、糖尿病や高血圧よりも、遺伝的関与が低いことを示しています。つまり、環境的要因が、かなり大きいと言うことです。環境的要因としては、乳幼児期の家庭環境が、非常に重要だと考えられていますが、それ以降の体験も、決して無関係ではありません。

 

12.もっとも重要な「環境」は親

親は子どもに遺伝子を分け与えるだけでなく、もっとも大切な「環境」でもあります。他人との間で、親との関係を再現してしまうのです。

 

パーソナリティ障害の環境的要因としては、家庭環境が重要ですが、核家族化した家庭では、親の影響が非常に大きくなっています。その一つは、愛情や世話がほどよく行き届いたかどうかという点です。ネグレクトされて育ったり、見捨てられたりする体験は、傷つきやすく、不安定な人格を生みます。もう一つは、親が、行動の手本になるということです。子どもは、言葉を学ぶように、親の行動から学びます。親が何に価値を起き、どう振る舞っているかを受け継ぎます。たとえば、演技性パーソナリティ障害の人では、容姿や性的魅力をとても重要視する家族がいることが多いのです。中には、反動形成といって、親の期待と正反対な人格を発達させることもあります。また、親の行動を模倣するだけでなく、親との関係を、他人との間で再現してしまうこともあります。虐待され、親から粗末に扱われた人は、他人から同じように扱われるような関係を再現してしまいやすいのです。

 

13.社会的な環境要因もパーソナリティ障害の増加に関係している

境界性や自己愛性パーソナリティ障害が急増しています。その背景には、家族が少人数になったことや、社会の自己愛化などが挙げられます。

 

パーソナリティ障害の中でも、境界性や自己愛性パーソナリティ障害が、急増していることが指摘されている。日本では、八十年代以降、そうした傾向が徐々に見られ、今世紀に入って、いっそう顕著となっている。パーソナリティ障害では、環境的要因が半分程度のウエイトをもち、また遺伝的要因が、数十年という時間スケールで大きく変化することはあり得ないことを考えると、環境要因の変化が、社会的な規模で起きて、急増につながっていると考えられる。社会的な環境要因としては、前項でも述べたように、核家族化や少子化、離婚の増加などによる、小家族化が挙げられる。それによって、親の影響力が増すとともに、それを中和する緩衝剤的な存在がいなくなったことによって、親の偏りや養育の欠陥を、子どもは、まともに被るようになったと考えられる。それ以外にも、社会の自己愛性や、パーソナリティをバランス良く発達させるための社会的体験の不足などが挙げられる。

 

14.発達障害の子どもはパーソナリティ障害になりやすい?

発達障害の子は、適応しにくさを抱え、環境や理解に恵まれないと、偏りを強めてパーソナリティ障害に発展する危険があります。

 

 発達障害は、さまざまな精神疾患のリスクを高めますが、パーソナリティ障害の発症リスクを高めることが指摘されています。たとえば、ADHDの子どもはが、否定的な扱いばかりを受けると、しだいに反抗的になり、さらに、非行や反社会的行動がエスカレートしていくと、反社会性パーソナリティ障害に発展する危険があります。ただし、その割合は、一割未満です。また、アスペルガー症候群などの自閉症スペクトラムでは、対人関係における消極性が強まっていった場合には、シゾイドパーソナリティ障害に発展したり、こだわりの強い傾向が、中心的な偏りとなると、強迫性パーソナリティ障害となることもあります。発達障害に認められる、自己の行動パターンへの固執性や衝動性、感情制御の困難、部分対象関係などは、いずれも、パーソナリティ障害の特徴と重なる部分が大きく、発達障害を適応的に克服できない場合、パーソナリティ障害となって、問題を露呈すると考えられます。

                                     

15.他の精神疾患と合併することがある?

うつや不安障害の背後には、しばしばパーソナリティ障害がひそんでいます。

 

パーソナリティ障害は、さまざまな精神疾患の背後に潜んでいることがある。もっとも多いのは、うつ状態や不安障害です。パーソナリティ障害があると、過敏で、傷つきやすく、ストレスに対して脆いのです。また、困難にぶつかると、二分法的な思考や部分対象関係のため、全体を見ながら柔軟に対応できず、融通の利かない、バランスの悪い対応をしてしまい、状況をいっそう困難にしてしまいがちです。その結果、本人は頑張っているのに、問題はこじれる一方で、余計にストレスをためやすいのです。そうした場合には、うつや不安の治療を行っても、問題をごまかしているだけで、根本的な改善にはなりません。背後にあるパーソナリティの偏りを自覚して、それを修正し、現実生活での適応力を高めていくことが必要です。一方、パーソナリティ障害と見まちがいやすい、精神疾患もあります。軽躁とうつを反復する双極性U型障害は、境界性パーソナリティ障害などと誤診されることがあります。

外来にやってくるパーソナリティ障害の多くは、うつ病や不安障害など、別の病名で治療を受けている。

 

コラム クロニンジャーの七因子理論

 パーソナリティ(人格)は、生まれつきの要素が強い「気質」と、後天的に身につけた「性格」が合わさったとものです。アメリカの精神科医ロバート・クロニンジャーは、気質の要素として「新奇性探求」「損害回避」「報酬依存」「固執」の四つを、性格の要素として「自己志向」「協調」「自己超越」の三つを抽出しました。

新奇性探求は新しい刺激を求める傾向で、高い人は、好奇心旺盛で飽きっぽく、低い人は現状維持を優先します。損害回避の高い人は、慎重で、堅実で、低い人は危険な賭けを好みます。報酬依存の高い人は、褒められると頑張りますが、低い人は、周囲の評価に無関心です。固執の高い人は融通が利かず、低い人は柔軟です。

自己志向は、自分の考えを実現しようとする傾向で、自己志向の低い人は、他人の考えに合わせてしまいます。協調は、人と仲良くやっていく傾向で、低いと孤立的に振る舞います。自己超越は、他人のために奉仕しようとする傾向で、低いと自分の利益ばかりを追求します。

クロニンジャーは、パーソナリティ障害になってしまうのは、性格の部分が貧弱であるためだと考えました。

 

第2章 様々なタイプのパーソナリティ障害

 

16.パーソナリティ障害は3つのグループと10のタイプに分けられる

孤立的で打ち解けないA群、魅力的だが、振り回されやすいB群、他人本位で不安が強いC群にわかれる。

 

 パーソナリティ障害は、さまざまなタイプがありますが、大きく三つのグループに分けることができます。A群は、孤立的で、信頼関係や親密な関わりを持ちにくいグループで、シゾイド、失調型、妄想性の三つのタイプがあります。B群は、関係を始めるのは容易ですが、変動が激しく、振り回されやすいタイプで、ドラマチック・タイプとも呼ばれます。境界性、自己愛性、演技性、反社会性の四タイプがあります。華やかで、格好良く、人を惹き付ける魅力を備えているのですが、親しくなるにつれて、変動の激しさや自己本位な行動に、戸惑うこともしばしばです。C群は、不安が強いものの、一見すると、パーソナリティ障害とは思えない、常識的なタイプで、依存性、回避性、強迫性の三つのタイプがあります。A群は、遺伝的背景としては、統合失調症と近縁性があり、C群は、不安障害などの神経症と近縁性があります。

 

17.境界性パーソナリティ障害(1) なぜ、自分を傷つけてしまうのか?

 強い自己否定感のために、「自分は生きる価値がない」と思ってしまう。救いや希望にすがりつこうとして、裏切られるということを繰り返しやすい。

 

境界性パーソナリティ障害は、強い自己否定感とともに、気分や対人関係の両極端な変動を特徴とするタイプで、リストカットやオーバードーズといった自傷行為や自殺企図が、繰り返されるのも特徴です。若い女性に多く、近年急増しています。過食や薬物依存、過呼吸発作や、意識が一時的に飛ぶ解離性症状、一過性の幻覚などが見られ、そのため精神病と間違われることもあります。見捨てられることに対して過敏で、そうした思いを抱いただけで、見捨てられまいと激しい行動化に走ったり、どうせ見捨てられるのなら、死んだ方がましだと、自暴自棄な行動に走るのです。見捨てられたくないという救いを求める気持ちと、どうせ見捨てられるという悲観的な思い込みが、心の中を行きつ戻りつしています。その根底には、「自分は無価値な存在なので、いつか見捨てられる」という間違った信念があります。それは、幼い頃からの体験で、身につけたしまったものなのです。

 

18.境界性パーソナリティ障害(2) なぜ、急増するのか?

急増の背景には、核家族化や働く母親の増加によって、幼い頃の愛情不足が起きやすくなっていることが原因として考えられています。

 

境界性パーソナリティ障害の原因は、一つには、気分が変動しやすい遺伝要因が関係しています。環境要因としては、幼い頃の養育が重要と考えられています。母子分離が行われる二〜三歳の時期に、見捨てられ体験や愛情を奪われる体験を味わうと、基本的な安心感が損なわれると同時に、見捨てられ不安を心に刻みこんでしまうと考えられます。ただ、それ以降の時期においても、本人の安全感を根底から破壊してしまうような心的外傷体験も、原因となり得ます。その代表的なものは、性的虐待やレイプ被害です。

境界性パーソナリティ障害は、アメリカでは、一九六〇年代以降、日本では八〇年代以降急増しています。その原因としては、小家族化や女性の職場進出によって、母親の負担が増し、子どもが不安定な愛情環境に置かれたり、見捨てられ感を抱きやすいことによると考えられます。

  

19.境界性パーソナリティ障害(3) 振り回されないためには、どうすればよいか

自分が何とか支えなければ、と思えば思うほど泥沼に入っていきます。本人に責任を戻すことも大切です。

 

境界性パーソナリティ障害の人に接する場合に、起こりやすい問題は、熱心に支えようとすればするほど、どんどん要求水準が上がり、本人の気分や反応に、振り回されてしまうということです。本人に気に入られようという思いがあると、余計泥沼に入りやすいと言えます。本人の気分に巻き込まれずに、冷静なスタンスで、いつも同じ方向を示す道しるべとなる関わり方が大切です。本人がやるべきことを肩代わりしたり、無理な犠牲を払ったりすることは、本人のためにもならず、後で行き詰まる原因となるので、ここまでが限界というラインを設定しましょう。

境界性パーソナリティ障害を改善するポイントは、善か悪かの二分法的な思考ではなく、その中間の受け止め方を増やしていくことです。そのためには、悪いことに出会っても、良い点を見つけていく力を養っていくことが、根本的な改善につながります。逆に、悪いことがあると非難したり、責めるというのは、良くない対応です。

 

20.自己愛性パーソナリティ障害(1) なぜ、いつも偉そうなのか?

誇大な万能感や人を人とも思わぬ尊大さは、強い劣等感をはね除けようとして身につけたものなのです。

 

自己愛性パーソナリティ障害は、過剰な自信や誇大な願望、他人に対する尊大な態度や非共感性を特徴とするタイプです。自分のことを特別だと考えていて、自分の利益のためなら、他人を利用し犠牲にすることにも、まったく心痛みません。このタイプの人にとって、「世界は自分のために存在している」からです。賞賛されることは、大好きですが、少しでも批判されると、激しい怒りを覚えます。このタイプも、遺伝的要因が半分くらい関わっています。バランスの悪い養育環境も多く見られます。このタイプの人は、幼い頃に溺愛され、甘やかされた人に多いと言えます。ただ、同時に、卑屈な思いや劣等感を味わう状況が併存しています。たとえば、このタイプ音楽家のワグナーは、溺愛されて育ちましたが、私生児という出自を抱えていました。偉大な成功という夢を膨らませることで、心のバランスを取らざるを得なかったという背景があるのです。

 

21.自己愛性パーソナリティ障害(2) 利用されて、捨てられないために

 自己愛性パーソナリティ障害の人は、他人を利用することを当たり前だと思っています。献身的に尽くしても、あまり感謝を覚えることもなく、逆に、些細なミスやうまくいかないことがあると、自分に原因があっても、周囲に責任転嫁して、攻撃してきます。よかれと思って欠点を指摘したりすれば、激しい怒りを買い、集中攻撃を食らうことになります。このタイプの人と上手に付き合うコツは、その人の偉大さを映し出す「鏡」となることです。鏡は、自分の意志を見せたり、多くを語りませんが、その人を魅力的に映し出します。それによって、このタイプの人は自分に自信と確信をもち、能力を発揮していくことができるのです。鏡となって、自信を与えてくれた存在を、その人は、大切に扱うようになります。また、鏡であるからこそ、その人が気づかないような支配力を及ぼすこともできるのです。権力者が、侍医や占い師や側近の女性によって動かされるのは、そうした心の力動によるのです。

 

22.演技性パーソナリティ障害(1) なぜ、芝居じみた行動をするのか?

演技性パーソナリティ障害は、注目や関心に対する飽くなき欲求と、身体的な自己顕示を特徴とするタイプで、過剰なパフォーマンスや外見的な魅力によって、人々の注意を惹き付けようとする。ときには、ウソやでっち上げによって、注目を惹いたり、同情を得ようとする。内面的なことよりも、外面的なことに関心があり、肉体的な魅力やセックスアピールを強調しようとする。こうした傾向は、外面的な魅力を重要視する養育者の態度や価値観の影響も大きいとされる。また、親の性的な側面を意識させられるような環境に育ったり、性的虐待を受けることも、一因となる。つまり、外見的、性的魅力が過大な存在感をもち、自分のアイデンティティを乗っ取ってしまった状態を起こしているのである。その根底には、周囲に息を呑ませるような外面的な魅力によってしか、自分の存在価値を認めてもらえないという内面の空虚感がある。

 

23.演技性パーソナリティ障害(2) 上っ面な魅力で終わらないために

このタイプの人にとって、注目される欲求は切実なものです。それを押し込めるのではなく、うまく生かすことが大切です。

 

演技性パーソナリティ障害の注目や関心への欲求は、非常に切実で強いため、自分を貶めてしまうことや、社会規範に反するようなことをしてでも、注目を得ようとする。それに対して、批判的な態度をとることは、このタイプの人にとっては、自分のすべてを否定されることに感じられ、余計に問題を悪化させやすい。むしろ注目や関心への欲求を満たすと同時に、外見的なことだけでなく、内面的な魅力を評価する対応をすると、安定した信頼関係が作られやすい。このタイプの人にとっては、多くの人に注目されることが重要なので、家庭に閉じこもるような生活は、うつや過食などの原因となる。評価や注目を受けるような対外的な関わりを大切にしたい。その一方で、外面的なことや刺激的なことばかりを追い求めるのではなく、内面的な知性や感性を磨くことも、本当の意味で豊かな人生につながる。家事や育児といった身近なことを大切にしたい。

 

オノ・ヨーコの場合

ジョン・レノンの妻として、知られるオノ・ヨーコは、日本でも有名な財閥の出身でした。しかし、子ども時代のヨーコは幸せではありませんでした。母親は、気位が高く、ヨーコには、あまり関心がありませんでした。彼女の有名になりたいという願望は、幼い日の関心不足と無関係ではなかったでしょう。ヨーコが、ジョン・レノンに接近したのは、計算ずくのことだったと言われています。彼女はロンドンに乗り込むと、マスコミの注目を浴びるべく、スキャンダラスな個展を開き、そこに、レノンが訪れるように仕組みます。現れたレノンには見向きもせずに、ヨーコは、黒い神秘的な衣装をまとって、レノンの気持ちを捉えたのです。そのとき、レノンには妻子があり、ヨーコにも夫や子どもがいました。二人の結婚が幸福なものとなったのは、彼らの関心が外面的なことから、内面的な価値へと向かったからでもありました。

 

24.反社会性パーソナリティ障害(1) なぜ、アウトローな生き方をするのか?

このタイプの人は、危険で、スリリングな状況が快感に感じられる。平和な状況よりも、争いや冷酷さに、心が馴染むのだ。

 

反社会性パーソナリティ障害は、危険やルールを侵害することを好む傾向や他人に対する冷酷な搾取を特徴とするタイプである。無鉄砲で、命知らずで、生命の危険や刑罰を受けることに対しても無頓着である。豪胆で、勇敢だとも言えるが、感情が欠如しているとも言える。このタイプも人は、平和な時代には、アウトローな存在と見なされるが、戦場にあっては、英雄的な戦士になることもある。こうした特徴は、脳の生物学的な特性とも関係している。このタイプの人では、恐怖を感じる扁桃体という領域の働きが低下している。そのため、危険や痛みに対しても、不安や恐怖を感じにくい。スリリングな状況を、むしろ快適だと感じる。遺伝的な要因もあるが、幼い頃に虐待や非人間的な扱いを受けると、扁桃体などの発達に異常が生じると考えられている。さらに、子どもの頃に、否定的な扱いを受け続けると、反抗がエスカレートし、社会を敵だとみなすようになっていく。

 

25.反社会性パーソナリティ障害(2) 被害者にならないために

口が巧い「虚言型」と、キレやすい「暴力型」に大きく分かれますが、相手が思い通りになるとみたら、容赦なく搾取しようとする点では同じです。

 

反社会性パーソナリティ障害の人は、危険を恐れず、口が巧かったり、行動が格好よかったりして、とても魅力的に見えることが多いと言えます。その魅力に囚われ、一旦親密な関係を結んでしまうと、次第に本性を顕して、金づるやカモとして、相手を搾取するようになります。それを拒もうとすると、今度は暴力の恐怖や、性的な支配でコントロールしようとします。まず、見かけのかっこよさに騙されずに、相手がどういうタイプかを、見抜いて、深く関わらないことが第一です。既に断ち切り難い関係にある場合は、一方的に尽くすのではなく、対等な関係を築くように、相手を導き、それに応じないようであれば、きっぱり関わりを解消した方がよいでしょう。このタイプは、年齢と共に落ち着いてくることが知られており、半数程度は、三〇代後半になると、改善してきます。ウソをつく虚言タイプと、暴力的なタイプに大きく分けられます。薬物乱用が加わると、対処がより困難になります。

  

26.シゾイドパーソナリティ障害(1) なぜ、一人が好きなのか?

孤独を好むのは、人といることに喜びを感じにくい遺伝的体質も関係しています。

 

シゾイドパーソナリティ障害は、対人関係を避け、孤独を好む傾向や、社会的な関心が乏しく、世間的な価値観から超然としているタイプです。性的な関心も乏しく、生涯独身の人も多い。名望や金銭に対する欲も、あまりなく、世捨て人や自然の中で生きる生き方に憧れます。こうした特性は、遺伝的要因が、かなり関係しています。近年見つかったDISC-1遺伝子の変異は、統合失調症やその近親者から多く見つかっていますが、この遺伝子変異がある人では、社会的無快感症が起きやすいのです。つまり、人と接したりする社会的体験から喜びを感じにくいのです。この遺伝子変異は、自閉症スペクトラムとも関連があります。ただ、環境的要因の関与も認められ、ネグレクトによって愛着障害を生じた人では、他人に対する無関心といった、このタイプの特徴が認められます。情愛に乏しい養育環境も、シゾイドパーソナリティ障害の一因となり得ると考えられます。

 

27.シゾイドパーソナリティ障害(2) あなたの常識を押しつけない

極めつけの「草食系」であるこのタイプの人には、世間的な成功や幸福よりも、雑事に患わされない平穏な日々が大切なのです。

 

シゾイドパーソナリティ障害は、人と関わることに喜びよりも、負担や苦痛を感じてしまいやすいのです。そうでない人は、孤立的に振る舞う生き方に、もどかしさや歯がゆさを感じ、もっとみんなと楽しめばいいのにと思ってしまいがちですが、それは、草食動物が、肉を見ても、ご馳走だとは思わないのと同じことです。自分の「常識」で判断して、親密になろうとしたり、社交的なライフスタイルを押しつけても、それは、本人に苦痛に感じられるだけです。神経過敏な傾向もあるために、雑事に患わされない、静謐で、単調な暮らしこそが、このタイプの人にとって理想の暮らしなのです。土足で踏み込むような真似をすると、追い詰められたように感じて、いつもは穏やかな人から、激しい反応が返ってくることもあります。煩悩に邪魔されないこのタイプの人は、コツコツと地道な仕事や研究をして、大切することもあります。本人のペースを尊重することが大事だと言えます。

 

哲学者ウィトゲンシュタインの場合

ウィトゲンシュタインは、ウィーンの豊かな家に生まれた。父親は、鉄鋼業で大成功し、巨万の冨を築いた。しかし、息子たちはどれも繊細な気質で、七人兄弟のうち四人が自殺している。ウィトゲンシュタインも、自殺の不安に怯えた。学校にも満足に通わず、機械いじりに熱中した。頭脳優秀だったにもかかわらず、正規の大学教育も受けず、まったく独学で、数学や哲学を学んだ。ノルウェーの寒村の小屋に引きこもったこともあった。彼が唯一心を許したのは、一人の青年だったが、その青年は戦死してしまう。彼も兵士に志願して、最後は捕虜になった。父親の死後、莫大な財産の相続を放棄して、小学校の教師になる。だが、小学校でも父兄とうまくやれずに、生徒に暴行したかどで免職になった。人生に絶望し、修道僧になることも考えたが、最後に選んだのは、大学の象牙の塔にこもって、哲学をすることであった。

 

28.失調型パーソナリティ障害(1) なぜ、変人と見られるのか?

このタイプの特徴は、常識を超越していることです。そうした感性や直感力は、しばしば偉大なアイデアや発見の原動力となります。

 

失調型パーソナリティ障害は、風変わりさや非現実的な知覚を特徴とするタイプで、世間の常識と無縁に、孤立的に行動する点は共通しています。第六感や霊的な現象、宇宙との交信といったことに、特別な関心や体験をもっていたり、インスピレーションが豊かだったりします。他の人には感じられない存在を感じたり、一過性に幻聴が聞こえたりすることもあります。失調型パーソナリティ障害も、統合失調症と遺伝的背景は共通するものの、発症していない状態と考えられます。霊感の強さを生かして、占い師や預言者、宗教家や芸術家として活躍する人もいます。精神分析学者のC・G・ユングや文豪夏目漱石も、このタイプの人でした。ユングの学位取得論文は、オカルトに関する研究でしたし、幻聴が聞こえたこともありました。漱石も、ロンドン留学中に幻聴がひどくなり、被害妄想に悩まされました。二人とも、その時期を乗り越えて、真に生産的な時期を迎えるのです。

 

29.失調型パーソナリティ障害(2) 豊かなアイデアをいかせ

このタイプの人は、自由を縛られると、窮屈に感じ力を発揮できない。自由業やマイペースでできる仕事が向いている。

 

失調型パーソナリティ障害の人は、神経過敏な傾向のために、生きづらさを抱えますが、常識に囚われない、日常的な発想を超えた、新しいアイデアを生み出します。過敏さを守りながら、豊富なインスピレーションを、現実的に生かすだけのベースがあれば、人に真似のできない成功も手に入れることができます。過敏さを守る方法の一つは、人付き合いを減らすことです。特に、若い過敏な時期は、引きこもった生活をして凌のも、一つの方法です。また、ユングや漱石が選んだように、大きな組織の中で働くのではなく、マイペースで仕事のできる自由業の道を選択するのも良いでしょう。もう一つ大事なのは、アイデアがただ風変わりな思いつきで終わらないだけの、ベースを培うと言うことです。そのためには、気長に地道な訓練を積んで、知識や技術を磨いていくことが大事です。また、現実的なアドバイスをしてくれるパートナーや友人をもつことも、成功の鍵を握ります。

 

C・G・ユングの場合

スイスの精神分析学者C・G・ユングは、インスピレーション豊かなこのタイプの人物であった。ユングは錬金術やオカルト、秘教や魔術に興味を持ち、曼荼羅や象徴の研究を行った。非科学的とされたものへの関心が、集合的無意識や原型という独自の理論を生み出すことにつながった。ユングは、無意識は、個人を超えて、もっと大きな集団や種全体につながっていると考えた。したがって、無意識との交流が失われと、精神が病気になってしまう。ユング自身、ある時期、幻聴を聴き、「夜の航海」と呼んだ無意識との対決に、沈潜したこともあった。その時期を乗り越えることで、創造的な時期を迎えるのである。ユングの「共時性」という概念を唱え、偶然の一致が、しばしば重要な意味をもつと主張した。しかし、見方を変えれば、それは、このタイプに見られやすい「症状」の所産だったとも言えるだろう。

 

30.妄想性パーソナリティ障害(1) なぜ、人が信じられないのか?

このタイプの極度の猜疑心や秘密主義は、他人は、スキさえあれば、自分を責めてくるものという信念の結果なのです。

 

妄想性パーソナリティ障害は、親しい人さえも信じることができない、強い猜疑心を特徴とするタイプです。傷つきやすく、また傷つけられたことを執念深く覚えていて、恨みの念を持ち続けます。配偶者や恋人の不貞を疑い、尾行したり、ケータイや下着をチェックして、行動を逐一監視しようとします。他人に対して警戒心が強く、自分のプライバシーを知られることを極度に厭がります。ときには、妄想的な思い込みに囚われることもあります。遺伝的要因とともに、いつも批判やアラ探しばかりされるような環境で育つと、助長されるようです。何か知られると、それでまた責められるという状況が、他人は、いつもアラ探しをして責めてくるものだという、このタイプ特有の間違った信念を生み出し、秘密主義や他人に対する極度な警戒心を強めてしまうのです。独裁者や大量殺人者にも多く見られます。薬物やアルコールの影響で、元々の傾向が強まる場合もあります。

 

31.妄想性パーソナリティ障害(2) 逆恨みされないために

このタイプの人は、親密な距離に踏み込んだ瞬間に、猜疑心のスイッチが入ってしまいます。親切が、愛情と誤解されることもあります。

 

妄想性パーソナリティ障害も、付き合い方を間違うと、大やけどをするタイプだと言えます。最初の印象は、やや堅苦しく、ねちっこいところはあるものの、真面目で礼儀正しいと感じられ、何気なく関わりを持ってしまうことも多いのです。最初に気づくポイントは、秘密主義で、内面やプライバシーを気軽に語ろうとしないことです。思い込みの激しさや、疑り深いところが見えてきたときには、危険ゾーンに入っていると思ってください。親密な関係になる場合は、支配され、縛り付けられることをある程度覚悟しなければなりません。体の内側まで、全部見せますというくらいの覚悟が必要です。それが無理であれば、親密な関係にならないように、安全な距離をとり続けることです。親切や親しげな振る舞いも、相手に誤解を与えます。あなたは、いつのまにか、その人の中では、「恋人」同然の存在になっているかもしれません。あくまで中立的で、感情抜きの関係に徹することです。

 

「政商」小佐野賢治の場合

田中角栄と昵懇の間柄で、「政商」と言われた小佐野賢治は、山梨の貧農の家に生まれた。「戸のない家」での極貧の暮らしから身を起こして、戦争のどさくさで財をなすと、乗っ取りや賄賂を駆使して、巨万の富を築いた。猜疑心が強く、会社が大きくなってからも、印鑑は人に絶対触らせなかった。役員の退職金も一度には払わず、分割で払った。会社を離れても、秘密を漏らさないように、口止めするためだった。「俺は、人間なんか信じられねえ。信じられるのは金だけだ」とよく口にしていたという。人当たりは良かったが、腹の中では、冷酷なまでに相手の心を読んでいた。

ロッキード疑獄で証人喚問され、「記憶にございません」を連発し、偽証の罪で有罪判決を受けた。嫡出子がいなかったこともあって、晩年は孤独であった。唯一信じられたのは、極貧生活を共にした二人の弟たちだった。

 

32.回避性パーソナリティ障害(1) なぜ、失敗を恐れるのか?

このタイプは、失敗することを恐れて、責任や親密な関係を避けしてまいます。自分は、どうせ失敗するという思い込みがあるのです。

 

回避性パーソナリティ障害は、責任やプレッシャーがかかる状況を回避することを特徴とするタイプです。失敗したり、傷ついたりする可能性のあることは、すべて避けようとします。就職や昇進、結婚や子どもをもつことも、責任が増えるため、二の足を踏みます。好きな人がいても、好意を打ち明けられませんし、相手からアプローチしてきても、いつか嫌われるのではとの恐れから、断ってしまうことも多いのです。また、肉体をさらけ出したりすることも苦手で、セックスなどにも、喜びよりも、不安が強く、積極的になれません。どうせ失敗する、嫌われるというネガティブな思い込みが強いのです。不安の強い遺伝的傾向とともに、親からいつも、自信を奪われるような言い方をされて育った人に多く、典型的には、「あまり褒められたことがない」と語る人によく出会います。失敗すると、何か言われるという思いから、いつのまにかチャレンジを避けるような行動様式を身につけてしまったのです。

 

33.回避性パーソナリティ障害(2) あなたの人生はあなたのもの

このタイプの人、チャレンジする前から、どうせダメだと諦めてしまいます。可能性を狭めているのは、この人自身の否定的な思い込みなのです。

 

回避性パーソナリティ障害の人は、せっかく長所や能力をもっていても、それが生かされません。チャレンジを避けるために、実力よりもはるかに低いレベルの人生になってしまうのです。それは、とてももったいないことです。一度きりの人生です。失敗を恐れていては、何もしない間に、人生は終わってしまいます。結果を恐れずに、思い切って決断し、行動することが、このタイプの人に何より大事です。そのために、小さなことから成功体験を積み、自信を回復する必要があります。得意なこと、好きなことから、やってみてください。そこから、きっと新しいチャンスが生まれます。周囲の人は、決して強制しないでください。強制されると、このタイプの人は、大きなプレッシャーを感じて、余計に逃げ出したくなってしまうのです。それよりも、些細なことを、どんどん褒めてください。勇気を出して、チャレンジしたときには、失敗しても、大いに褒めてください。否定的な言葉は禁物です。

 

アガサ・クリスティの場合

「ミステリーの女王」アガサ・クリスティは、子どもの頃から読書と空想好きの内気な少女でした。数学やピアノも得意でしたが、本番に弱く、まるで力が発揮できません。アガサも、年頃になると、求婚を受けます。相手は、どれも立派な紳士で、アガサも最初は気に入るのですが、結局、最後には断ってしまうのです。そんなことが、三回ばかり繰り返された末、アガサは、ハンサムで魅力的な男性から求婚されます。アガサは煮え切らない態度をとりますが、戦争が始まり、彼が戦場に行くことになって、ようやく結婚に踏み切るのです。

ところが、戦争が終わって、一緒に暮らすようになると、遊び人の夫はろくに仕事をしようとしません。しかし、夫と衝突したくないアガサは、生活のためにミステリーを書くようになります。それが大成功をもたらしたのです。

 

34.依存性パーソナリティ障害(1) なぜ、一人で生きていけないのか?

「自分は無力なので、一人では何もできない」というこのタイプの思い込みは、幼い頃から、親との関係で刷り込まれたものなのです。

 

依存性パーソナリティ障害は、自己決定の困難さや心理的な支えを常に必要とすることを特徴とするタイプで、誰かに頼らないと生きていけないという思い込みに囚われています。そのため、常に他人の顔色を伺い、機嫌を損ねないようにサービスしたり、その価値もない相手に、献身したりします。「いや」と断るのが苦手で、押しの強い相手には、つい言いなりになってしまいます。そのため、悪徳商法や寄生虫のような人物の餌食になってしまいやすいのです。売春や犯罪行為をして、多額の金品を貢ぐこともあります。このタイプは、養育環境との関係が大きく、いつも横暴な親に支配され、ビクビクしながら育った人が典型的です。病弱な親や不安定な親の面倒を子どもの頃から見ていたというのも、よく見られるパターンです。親と子どもの関係が逆転し、子どもが保護者の役割を押しつけられることで、自分よりも、相手を優先するという行動様式を身につけてしまったのです。

 

35.依存性パーソナリティ障害(2) 孤独に強くなれ

「他人に嫌われたら生きていけない」という思い込みは、幼い頃から親の顔色をうかがって生きてき名残です。そこから脱しましょう。

 

依存性パーソナリティ障害の人は、決めるのが苦手で、何でも最終的な決定は、人に任せようとします。しかし、それでは、いつがきても、自己決断力をつけて、心理的自立をすることはできません。たとえ、ベストの決定でなくても、自分で決定することを繰り返す中で、決断力も養われるのです。些細なことも、「あなた、決めて」ではなく、自分で決めるように、本人も周囲も心がけることが大事です。また、相手の気持ちに合わせるのではなく、自分の気持ちを言うことを大切にしてください。周囲の人も、できるだけ本人の気持ちを引き出すようにしてください。人と違う意見を言ったときには、特に評価するようにしてください。自分の気持ちを言えるようになることで、人生が良い方向に変わっていった人を、大勢見てきました。それは、些細なことのようで、決定的なことなのです。いい人を止めることで、狭かった人生が、大きく開けてくるでしょう。

 

画家ユトリロの場合

ユトリロの母親シュザンヌ・ド・ヴァラドンは、モデルから画家になった個性の強い女性で、その母親に支配されて育ったユトリロは、自分の意思表示ができない、無口で、人付き合いの苦手な人間になりました。いつも愛情不足の中に放っておかれたため、十代からアルコール依存症になっていました。その治療のためにと始めたのが、絵を描くことでした。そして、ユトリロは、自分を表現できる手段を得たのです。

誰にも振り返られなかったユトリロですが、画家として売れ出すと、急に結婚相手の女性が現れます。十二歳も年上の大柄な女性ボーウェルです。ユトリロは、この妻に支配され、「貨幣製造器」として搾取され続けます。ユトリロ自身にとっては、この頑丈な自我をもつ妻にしがみついていることで、安定を得ていたのかもしれません。

 

36.強迫性パーソナリティ障害(1) なぜ、正しいことにこだわるのか?

秩序や道徳というものを大切にし、曲がったことが大嫌いなこのタイプは、生真面目な親に厳しく躾けられた人に多いと言えます。

 

強迫性パーソナリティ障害は、秩序や一定の流儀に、強く囚われることを特徴とするタイプで、完全主義や融通の利かない傾向もみられます。自分の義務に忠実で、責任感が強く、曲がったことや不道徳なことは、受け入れられません。一旦決められた規則や計画を実行することを重要視し、いい加減なことは許せません。そのため、自分を犠牲にしてでも、責任や義務を果たそうとし、無理をしがちです。うつや心身症にやりやすいタイプです。現状を維持しようとする傾向が強く、物を捨てるのが苦手で、同じことを繰り返すことに安心を覚えます。哲学者カントは、ぴったり同じ時刻に、同じ道を通って散歩をしたことで有名ですが、謹厳実直で、秩序愛に満ちた道徳哲学を打ち立てたカントも、このタイプの人物だと推定されます。このタイプは、固執性の強い遺伝的傾向と関係し、それが、厳しい躾や折り目正しい養育者の薫陶によって、より強化されたものと考えられます。

 

37.強迫性パーソナリティ障害(2) ほどよさを心得る

真面目で、努力家で、責任感の強いこのタイプは、他人にも同じルールを押しつけて、煙たがられないように気をつけましょう。

強迫性パーソナリティ障害の人は、自分にも他人にも厳しく、妥協しないという傾向が見られます。そのため、自分にも周囲にも無理を強いてしまうのです。自分が「うつ」になるだけでなく、周囲を知らすしらず病気にしてしまうこともあります。職場の同僚や部下もそうですし、配偶者や子どもが、そうなってしまう場合もあります。本人は気づかないのですが、いつのまにか自分の流儀を絶対的なものとして、周囲に強い、その結果、周囲は窒息状態に陥ってしまうのです。自分にとって最善のことであっても、人にとっては、最善ではないということ、そして、無理強いされた瞬間に、最悪のものになってしまうと言うことを、理解する必要があります。誰も、自分の息で呼吸したいのです。他人の息を呼吸したい人などいないのです。逆に、このタイプの人に接する上では、この人のルールを受け入れるか、袂を分かつしかありません。最善の策は、互いの領分をはっきりさせて、棲み分けをすることです。

 

作家の曽野綾子さんの場合

『神の汚れた手』や『奇蹟』などで知られる作家の曽野綾子さんは、クリスチャンであったこともあり、折り目正しい教育を受け、「優等生」「善い子」として育ちました。作家としてデビューしてからも、また、作家の三浦朱門氏と結婚して、妻となってからも、「優等生」であり続けました。しかし、次第に彼女は「うつ」の症状に苦しむようになったのです。特に、曽野さんは、母親に対して、言いなりと言ってもいいくらいに、「善い子」を演じ続けていました。ある頃から、問題の根っこが、母親との関係にあることに気づかれたのでしょう。彼女は、母親の言いなりになるのを止めて、「善い子」を卒業しようとしたのです。母親との関係は、一時的に悪化しましたが、それは、曽野氏が依存を脱し、真の自立を遂げる痛みだったのでしょう。ご自身の経験から、『善い人をやめると楽になる』というエッセーを書かれています。

 

38.色々なタイプが合併することもある

パーソナリティ障害は典型的な十のタイプに分類されますが、現実には、さまざまな割合で、いつくかの傾向が混じり合っているのがふつうです。

パーソナリティ障害は、十タイプに分けられますが、それは、連なる山脈の峯のようなもので、裾野の部分では重なり合っているのです。一つのタイプだけに当てはまる場合もありますが、複数のタイプに当てはまることも多いのです。いろいろな要素があって、ある意味当然なのです。

また、境界性パーソナリティ障害は、すべてのパーソナリティ障害の中でも、特別な地位を占めています。というのも、あらゆるパーソナリティ障害は、何かのきっかけで、見捨てられ不安や自己否定感が強まると、境界性パーソナリティ障害の様相を呈するのです。つまり、境界性パーソナリティ障害は、パーソナリティ障害の中でも、急性増悪を来した状態だと言えるのです。この場合、境界性パーソナリティ障害の治療を行う中で、元々あったパーソナリティ障害の問題もいっしょに出てくるわけですが、それを機に、どちらも改善するきっかけになることがあります。

 

39.職場のPDプロブレム

人間関係が濃くなり易い職場では、今、パーソナリティ障害によるトラブル、PDプロブレムが増えています。

 

職場で、パーソナリティ障害が引き起こすPDプロブレムが、大きな問題となっています。他のところでは、関わりを避けられても、職場ではそうはいかないからです。それがきっかけで、うつ病などの精神疾患にかかったり、退職や自殺にまで追い込まれるケースも跡を絶ちません。もっとも多いのは、自己愛性パーソナリティ障害の人が、上司になった場合です。自己愛性の場合、部下を犠牲にしてでも、業績を上げることが優先されます。自分の考えしか受け付けず、批判は許されません。しかし、失敗すれば、部下の努力不足やミスのせいにされ、責められます。怒鳴られたり、侮辱されたりすることもあります。強い発言力を持っていることも多く、誰にも鈴をつけられないのです。不当な人権侵害が行われたときは、記録を残すことが重要です。上に知られることや表沙汰になることには、敏感ですので、実情を、さらに上の管理職や外部の機関に相談することが抑止力になります。

 

40.恋愛・結婚のPDプロブレム

職場と並んで人間関係が濃厚になる場面は、恋愛と家庭です。ストーカーやDV、虐待の問題の背後には、パーソナリティ障害が見え隠れします。

 

パーソナリティ障害によるトラブルが急増している、もう一つの場面は、恋愛や結婚においてです。関係が濃密になる恋愛や結婚も、PDプロブレムが発生しやすいのです。相手にひそんでいる問題に気づかずに、不用意に付き合い始めたばっかりに、シャブ漬けにされ、売春をさせられたり、ストーカー行為を受けた挙げ句、殺されるというケースも現実に数多く起きています。恋愛において、特に危険なタイプは、反社会性、妄想性ですが、自己愛性や境界性でも、DVやストーカー行為が、しばしばみられます。問題が出現したときに、それを黙認してしまうと、エスカレートしやすいので、初期の段階で、きっぱりとした対応をとることです。十年以上も結婚生活を続けて、子どももできてから別れるのは、お互いつらいことです。早めの対応が大事なのです。回避性やシゾイドでは、結婚寸前までいって、なかなかゴールインしないということがあり、待ちぼうけを食らわされることもあります。

 

コラム パーソナリティ障害と間違われやすい双極性U型障害とは

躁うつ病の一種で、双極性U型障害というのがあります。うつと軽躁ほ繰り返すのが特徴ですが、軽躁は、躁状態とは違って、少しハイテンションと思われるくらいで、病気とは気づかれにくいのです。ところが、この軽躁の時期に、派手に遊んだり、借金を作ったり、異性問題が起きたりということが珍しくありません。しかし、周囲は性格の問題と思って、本人に不信感を抱いたり、責めたりしがちです。やがて、うつがやってくると、自分のしてしまったことで、さらに深く落ち込むと言うことになりがちです。境界性パーソナリティ障害などと、誤診されることもあります。見捨てられ不安や慢性的な空虚感、それに基づく自傷行為や自殺企図が見られるかが、見極めのポイントです。

 

第3章 パーソナリティ障害をパーソナリティスタイルに変えていくために

41.パーソナリティ障害は治る?

パーソナリティ障害は、今日では改善が可能な状態だと考えられています。年齢や社会的体験によっても、回復は左右されます。

パーソナリティ障害は、かつて、改善が困難と考えられた時期もあった。だが、今日、治療的な取り組みが活発となる中で、改善が可能な状態と考えられている。もちろん、パーソナリティ障害は、ある程度の持続性をもった様式であるため、一朝一夕で変化するものではないが、根気よい取り組みによって、改善や修正ができる。また、加齢による変化や成長も重要である。境界性パーソナリティ障害や反社会性パーソナリティ障害の多くは、三十代後半くらいから落ち着いてくることが多い。性ホルモンが活発な時期には、衝動性や反応性が強まりやすいが、その時期を過ぎると、情動もコントロールされやすくなる。シゾイドや妄想性、失調型のように、生物学的な気質の要素が強いものでも、年齢とともに、性格が「丸くなる」ということは、しばしば経験する。ただし、不遇な環境や孤独な環境に置かれると、逆に、パーソナリティの偏りが強まる場合もある。

 

42.診察を受ける時に注意すべきこと

どの病院に行けば、良くなるというものではありません。関心と意欲と技量をもった治療者に出会うことが何よりも大切です。 

パーソナリティ障害を専門にする医師の数は、非常に限られています。残念ながら、パーソナリティ障害に対して、偏見をもっている医師もいます。パーソナリティ障害と聞いただけで、厄介がられてしまう場合もあります。逆に、意欲はあっても、興味本位で、力量が伴わない場合は、弄くり回されて、手に余るようになると切り捨てられるということになりかねません。ある程度の経験と力量をもった医師にかかることが、改善のためには不可欠です。保健所(保健センター)の窓口で、思春期の治療経験が豊富な医師や認知行動療法に通じた医師を教えてもらうとよいでしょう。また、薬物乱用や摂食障害などに対応できる医師では、パーソナリティ障害の臨床経験も豊富なので、そうした医師を探すのも一法です。医師自身のパーソナリティが不安定だったり、脆弱だったりする場合は、迷走しやすいので、共感的であると同時に、しっかりした自我をもった医師に出会うことです。

 

43.薬物療法は有効か

薬物療法は、過敏性を緩和したり、気分の安定化や不安の改善によって、パーソナリティ障害の生きづらさを和らげるのに有効です。

 

生活の支障が大きいケースほど、薬物療法は有効性が高い。パーソナリティ障害に伴いやすい困難として、過敏性と感情不安定や衝動性がある。また、抑うつや不安、対人緊張の強さも、生活に支障を生みやすい。これらは、いずれも、薬物療法が有効である。たとえば、境界性パーソナリティ障害では、少量の非定型精神病薬により、過敏性を緩和し、気分安定化薬により、感情の不安定さ衝動性の改善をはかることで、本人も周囲も、生活が容易になる。認知行動療法などと併用することで、さらに効果が生まれやすくなる。ただし、薬物に依存しやすいケーも多いので、依存性のある抗不安薬などの使用には、慎重でなければならない。その意味でも、依存性のない非定型精神病薬や気分安定化薬を中心とした処方が安全である。また、一度に長い日数の処方を行うことは、自殺予防の観点からも避けるべきである。

 

44.認知行動療法とは?

認知行動療法では、不適切な「自動思考」を見つけ出し、もっと適応に役立つ思考パターンを身につけなおす訓練をする。

 

認知療法と行動療法を一体化した治療法で、その人の認知の偏りを見つけ出し、修正を図ると同時に、より適切な対応を実践的にトレーニングします。まず、日々の行動でトラブルや困難に出くわす度に、それを記録します。@きっかけとなる出来事とAそれに対する反応を書いた上で、@の出来事をどう受け止めたために、Aの反応が出てきたのかを考えます。そこから、「自動思考」と呼ばれる、偏った認知パターンがわかってきます。その認知パターンが、いかに現実性を欠いた思い込みであるかをわからせたり、もっと良い受け止め方を考え、それ徹底して修得していきます。たとえば、百かゼロかで物事を受け止めてしまう「二分法的思考」を認めたとすれば、「ほどよさが一番」という認知へと修正していくのである。それを、さらに、ある場面を思い浮かべて実践したり、ロールプレイで実際にやってみたりして、より適応的な行動パターンを身につけていきます。

 

45.弁証法的行動療法とは?

境界性パーソナリティ障害の根本障害を、弁証法的な統合の失敗と考え、「すべて良い」でも、「すべて悪い」でもない、中間の認知を育てる。

 

マーシャ・リネハンが、自殺企図を伴う境界性パーソナリティ障害の治療のために独自に開発した認知行動療法の一つです。弁証法的行動療法(DBT)は、その名前にも示されるように、境界性パーソナリティ障害の根本的な障害を、弁証法的な統合の失敗と考えます。弁証法とは、「Aである」と「Aでない」という相反する命題が、より高い次元で、一つに統合することです。境界性パーソナリティ障害では、たとえば、「愛している」と「憎んでいる」という相反する見方は、一つに統合されないため、どちらかの極端な反応をしやすくなると考えるのです。DBTでは、もう一方の見方に気づかせ、バランスの良い認知や反応を身につけさせていきます。DBTの柱となる認証戦略では、どんなに悪い状況でも、良い点があることに気づかせようとします。また、もう一つの柱である問題解決戦略では、葛藤やストレスに対する対処を実践的に学んでいきます。

 

46.対人関係療法(対人間再構成療法)とは?

人は、かつて子どもだったときの親との関係を、他人との間に再現してしまう。その人を縛る親への「忠誠」から、解放することを目指します。

 

心理療法家のローナ・ベンジャミンによって確立された心理療法で、認知療法と精神分析の両方の流れを汲んでいます。ベンジャミンによれば、パーソナリティ障害の人の偏った対人パターンは、その人が子どもだったときに、その人にとって重要な人物(親など)との関係を再現しているものなのです。子どもの頃には、それが適応に寄与したわけですが、大人になった今は、生活の妨げとなっているものの、それを止めることができないのです。この対人パターンの再現は、三つのコピープロセスによって行われます。一つは、過去の重要な人物のようになることによって、一つは、その人物が、今もその場にいて監督しているように振る舞うことによって、一つは、その人物が自分を扱ったように、自分自身を扱うことによって。対人関係療法では、不適応パターンが、愛する人との関係に由来することを自覚し、その呪縛から自由になることによって、人生の可能性を広げようとします。

 

47.克服するために大切なこと

自分では当たり前と思っている「囚われ」が、あなたを縛っています。まず、そのことに気づくことです。

 

パーソナリティ障害の人を苦しめているのは、囚われです。いつの間にか、自分で自分を縛っているのです。「こうするしかない」、「こうでなければならない」、「意地でもこうしてやる」と、囚われの形はさまざまですが、柔軟に目先が変えられないという点では同じです。井戸の中から空を見上げて、それが自分の世界だと思い込んでいるのです。考え方や感じ方は、もっと自由で多様なものです。あなたが、そう感じるからと言って、人も同じように感じるとは限りません。自分が気にしていても、他人はあなたの気にしていることに、まったく無関心ということも多いのです。自分の囚われを自覚し、その縛りから自由になるとき、あなたはもっと大きな可能性を手に入れることができます。そのために、必要なのは、自分を縛っている囚われに気づくことです。なぜ、自分は、人の顔色ばかりうかがうのか。なぜ自分は、人より優れていないと気がすまないのか。なぜ、完璧なものをもとめてしまのうか等々。

 

48.パーソナリティ障害をパーソナリティスタイルに変える

ほどよい偏りは、むしろ「個性」として大切なもの。それが苦しみになるのは、あまりにも「極端」だったり、「頑な」になってしまうからです。

 

人はそれぞれ何らかの偏りを持っています。それは、硬直化したり、極端だったりしない限りは、「個性」なのです。偏りがあっても、相手や状況に応じて、柔軟に形を変え、バランスをとることができれば、かえって、それは魅力となるのです。パーソナリティ障害が克服されていくということは、没個性的な偏りのない人間になるということではなく、その人に備わった特性が生かされた「パーソナリティスタイル」を手に入れると言うことなのです。そのためには、性格を大改造するというよりも、ほんの少しだけ、極端にならないように、また柔軟になれるように、受け止め方や反応を変えていけばいいのです。持てる特性を生かすと同時に、それに溺れないようにすることで、余計魅力は増します。心が頑なになっていないか、極端になっていないか、注意してください。もしそんな自分に気づいたら、体の力を抜き、反対側を見て、大きく深呼吸してください。自分の囚われから、少し自由になるはずです。

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